LOVE*LOVE Ver.2

No  2060

なみだ。

真夜中 携帯が 鳴る。

いつだって
夜更かししまくりの あたしだけど
深夜に メールではなく 携帯が鳴れば
一瞬 ビクっと する。
身内に なにかあったのか?と。

携帯を ひらくと そこには
N美 の名前。
高校時代からの 友達だけど
もう 友達と呼んでいいのか と
ふと 考えてしまうほど 連絡は とっていない。

「・・・はい。」

と でると

「いずみ?」

と なつかしい声。
その瞬間に ふと
「いずみ」 って あたしを呼ぶ人
ずいぶん少なくなったなぁ と 思った。
学生のころや 若い頃は
「いずみ」 って みんな
呼び捨てで 呼ぶ友達ばかりだったけれど
いつの間にか
「いずみちゃん」 と 呼ぶ友達が 増えて
「いずみさん」 と 呼ぶ友達さえも いる。
それだけ 年を とったということなのか。
今 あたしのまわりで
「いずみ」と 呼ぶのは
親と親類のおじちゃんと
学生のときからの友達と
昔の男と tk と ←同じカテゴリではない。
だーりん☆くらいであろう。

「どーした?」 と 聞くと

「まだ 起きてた?」と 答える N美。

「起きてはいたけどさ。
 どーした?なんかあった?」

「うーん。
  今 ちょっと携帯いじっていたら
 いずみの名前をみつけたから
 どーしてるかなーって 思ってさ。」

なんかのときに たまたま
アドレスのなかの 友達の名前をみて
なつかしく思う気持ちは わからないでもないが
どーしてるかなーって 思ったとしても
通常の感覚であれば
ちょっと 電話してみる時間では けしてない。
それが わかる人間か否かは
やや 微妙。
ときどき 常識から逸脱するのが
N美らしいといえば N美らしい。

「みんな 元気にしてる?」 と N美が聞く。

みんな・・・。
みんなっていうのは
どこにかけた みんななんだろーか?
うちの家族のことなのか
それとも 高校でつるんでいた
みきを 含めた 友達たちのことか と 言葉に迷う。
なんだかどうも
電話が 長くなるような気がしたので
隣の和室で寝ている
だーりん☆と娘其の弍を意識して
洗面所に 移動。
声が 家のなかに響かないように 扉をしめる。

「みんな 元気っちゃ 元気だけど・・・。」と 言葉を濁すと

「そうなんだ。」と 沈んだ声のN美。

「N美は 元気?どーしてるの?」と やんわり問いかける。

「あたし?あたしは 入退院繰り返してる・・・。
 今日も 退院したばかりだよ・・・。」

「どこが・・・悪いの?」
N美は もう 10何年前くらいから
胃だ。腸だ。腎臓だ。肝臓だ。心臓だ。
と 健康な内臓はほとんどないってくらい
あちこち悪くて大変だと 聞いていたので
そのうちのどこかが 決定的にやられているのかな と思った。

「・・・・・頭。」

頭?。
脳関連ってことか?と 思ったけれど
すぐ そうじゃないことは 理解できた。
電話の最初から 感じていた会話の違和感。
酔って電話してきてるのか?とも 思っていたけど
彼女の呂律のまわらない独特の口調は
まさしく 精神的な薬を飲んでいるときの症状だ。

「そうなんだ・・・。
 病名は なんなの?」

「鬱と パニック。」

「そうなんだ。つらいね。」

「うん・・・。それでさぁー・・・」

N美は そこから あふれだすように
今の自分の実情を 矢継ぎ早に 語りだす。
合間合間にいれる あたしの相槌を
N美は まったく聞いていないので
ふたりの会話のタイミングは どんどんずれていく。
そのN美の後ろから
こどもたちの歓声。
そのたびに N美が こどもらを怒鳴りつける。
保育園のなかで いちばん寝るのが遅いのでは?と
いつも思っている娘其の弍でさえも
夢の中の この時間。
歓声をあげて 起きていることもの声は
異質なまでの なにものでもない。

「オマエラ ハヤク ネロッテユッテンダロッッッ!」

と 怒鳴るN美は
昔から なにも変わってはいない。
N美は みきと同じ年で 最初のコを産み
その翌年 年子で二人目を 産んだ。
そして その翌年には 離婚。
幼いふたりを 抱えて
アカギレだらけの手で がんばって育てていた N美。
その頃 よく 夜にN美と 電話で話したりもしていた。
娘其の壱と息子其の壱は
毎晩8時前には 寝ていたので
真夜中になっても 起きてるN実のコに
びっくりしたりしていたけど
保育園にいってるコは
昼間のお昼寝が 長いから 夜はなかなか寝ない という
N美の言葉に
そーなのか と 納得して

「オマエラ ハヤク ネロッテユッテンダロッッッ!」

と 何度も何度も
こどもを怒鳴るN美に
あの頃は なにも疑問も抱いたりしていなかった。
今 あのときのふたりは
23歳と22歳にも なり
もう 家をでて 働いているような話だったけれど
N美は そのあとに
娘其の弍の 1つ上と1つ下のコをふたり
また 産んだと きいていた。

そのうちのひとりのコが
なにか N美に話しかける。

「ナンダヨッ!ウルセエナッ!」
「アァァァァーーッッ!ウルセーカラ ムコウニイケヨッッ!」

怒鳴って突き放す声が 胸に 突き刺さる。
電話のむこうで あたしからはみえない
N美のこどもの哀しそうな顔が
娘其の弍と たぶってみえる。
瞳からこぼれる涙が
あたしの手のひらに落ちてきそうだ。

あたしの問いかけや相槌のタイミングから
程遠いタイミングで
自分のことを 話しつづけたN美の
言葉の合間を くぐるように
病気の要因は なんだと思う?と聞いてみる。

「なんで あたしが?って思うから。」
「あたしが なんで こんな生活なの?って思うから。」

と N美は いった。

彼女の ややとりとめのない話を解釈すると
今 したのふたりのコたちの父親とは
いろいろな事情で 籍をいれてないらしい。
そして 生活にもかなり窮困している と。
働きたくても 働けない。
こどもにも お金がかかる。
入院して ゆっくり直したいけれど
こどもを 長く預けられるところがないから
細切れにしか 入院できない。
ショートスティに いつも預けているけれど
1週間過ぎると 施設にもってかれてしまうから
いつも 治療の途中で退院してしまうんだ と。
なんで あたしが こんな生活してるの?
あたしは こんな生活する人間じゃない。
と 自分で自分を 責めてしまうのだ と。

父親が こどもの面倒みれないのか。
上のコたちは そばにいないのか。
親たちは どーしてるのか。

そこらへんを 聞いてみたかったけれど
聞かなかった。
昔から 彼女をとりまく人間関係は
やたらに複雑で ややこしい。
そして まるで 自分でもさらにそれを
複雑にするかのように
理解しがたい 行動にもでるのが 常だった。

高校にはいってすぐから N美は 目立っていた。
まだ 流行はじめるかどうかと いうくらいの時だったけれど
すでに 聖子ちゃんカットにして
スカートも ながくおろしていた。

忘れも しない。

高校の教室の窓から 放課後
校門のそばの桜の木から
無数のはなびらが 舞っているのに
あたしが
なんとなく みとれていた そのときに

ねーねー。
櫛 もってない?

と 声をかけてきたのが N美だった。
もってるよ と 櫛と鏡を 渡してあげると
髪を 梳かしながら N美が

あたしの親 離婚してるんだ。

と 突然 つぶやいた。
衝撃的だった。
その当時のあたしは
自分の親が 幼少のとき離婚していて
今の父親と 血がつながっていないという事実は
なにがあっても 人に話しちゃいけないもんだと
そう ずっと 思っていた。
だから いきなり その核心から
話してきた N美がすごく 大人にみえた。

・・・あたしも。

はじめて 自分の親の離婚を
何事もないように 他人に話した。
そこから N美とあたしが 急速に
仲が よくなったのは いうまでも なかった。
そして 親の干渉がとりわけ少ない
N美の部屋は またたくまに
仲間うちの 溜まり場に なった。
N美は 誰よりも誰よりも 大人にみえた。
いつでも キレイで
いつでも 強くて
いつでも 優しかった。
たぶん それは
あたしの目だけではなくて
誰の目にも そう 映っていたと 思う。
少なくとも 25.6歳 くらいまでは。

それが
いつの頃からだったのだろう。
気がついたら
驚くほど N美は 幼かった。
思考力も 判断力も すべてにおいて
17歳くらいの あの N美のまま だった。
10代には 大人にさえ感じた
思いきりのいい 行動力は
あきらかに 無謀 といわれる行為となった。
人の忠告は なにも聞かずに
八方塞になっていく N美は
それでもなお 誰の言葉も耳にかさなかった。
N美が 自ら引き起こす
N美の人生の波乱な出来事に
誰も 理解はしめせなかった。
N美からは  ひとりふたり と
みるみるうちに 友人と名のつく人が 離れていき
あたしや みき でさえも
まったく 連絡を 取らなくなってから
もう どれだけの時間が過ぎたんだろう。
N美は どの知り合いに聞いてみても
最終的に かなり最悪な状況で
孤立して しまっていた。
だけどそれは
彼女が 望んでいたことではないかと 思うほど
様々な事実の結果のような気もした。



「いずみ」

と N美が つぶやく。
気がつくと あたしは
ハラハラと 涙をこぼしてしまっていた。
なんの 涙 なんだろう。
N美への同情なのか。
それとも
あたしのなかでくすぶっていた
友情の残骸が また 灯りだしたとでもいうのか。
涙は とまることなく こぼれていく。

「また・・・電話するね。」
N美は あたしの涙に気がつき
電話を 終わらせようとしている。

「いいよ。」と 涙をおさえられないまま 答える。

「いずみ・・・。」
「いずみ・・・。」

「ありがと・・・ね。」

と 最後 そういったN美の声は
あの独特の口調ではなく
昔からの  いつもの声だった。
あたしを 呼ぶ N美の声だった。

高校生のあの頃に かえるたび
あたしの思い出になかには
みきが いる。
Kが いる。
H美が いる。
N美が いる。
そして H がいる。
みんな 体をよせあい おなかを抱えて 笑っている。
携帯もなくて メールもなくて
プリクラも カラオケも なかったけれど
いつだって みんなで 笑っていた。
去年の あの一件から あたしは
H と 連絡を まったくとっていない。
Hから 離婚をした という メールももらったけれど
あのときの気持ちの整理がつかないまま
返事は送ることなく 今になっている。
あたしが 凹んだり しんどくなったりしたときに
いつも いつも
みきに愚痴を聞いてもらって
お茶したり遊んだりして
気持ちを なんとか整えるように
N美だって Hだって
学生の頃の友達の誰かに
素の自分にもどって
話を 聞いてもらいたいことも
きっと あるにちがいない。
だけど
彼女たちの その話を 今
ゆっくり 頷きながら聞いてあげることが
できない 頑なな 自分が いる。
もっと 柔軟に
もっと 多感に
彼女らと いっしょに
過ごしたあのころの 自分に
戻りたい。
でも
戻れない。

電話を きったあと
みきに メールをする。
ぐっすりと 眠りこんだ 娘其の弍の横に
もぐりこんで 娘其の弍の手をにぎる。
だーりん☆の寝息に 呼吸をあわせる。
息子其の壱は 部活があるので 早々に就寝だ。
娘其の壱は まだ 部屋から物音がしているので
今夜も このまま 夜更かしをするのだろう。

ざわざわとするような 気持ちを
ふかく 何度も深呼吸して
眠りに つこうと 目を瞑った。


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この記事のコメント

No.6506 NO TITLE
ワタシも同じ経験あるよ。
夜中の友達からの電話。
彼女の場合はもうおしゃべりにならないくらいやられていた。
でも、そんな中でも電話をくれる・・・ってゆーのは、
N美ちゃん同様、昔の楽しかった時代に戻りたい一心なんだろうね。

40年も生きてると、逆行に耐えられる友達と、
そうでない友達にくっきり分かれるよね。
「なんで自分が。」って思うことが、一番よくないことだと、
Yを診てくれた先生が言ってた。
どんな状態でも、自分の今を受け入れることが
打開の第一歩らしい。

N美ちゃんも、いつかそのことに気がついてくれればいいね。
子供たちのためにも、自分のためにも。
2008-04-05 Sat 00:31 | URL | hiyo #SJU9LjQI[ 内容変更]

No.6508 >hiyoちゃん
なんだと 思う。
誰かの声が 聴きたい。
誰かに 話を聴いてもらいたい。
あたしが いちばんスキだった自分を
知っている誰かに。
・・・ってとこなのかな。

後日 今いちばん近いであろうと
彼女とあたしの共通の友人に連絡したら
ほとんど連絡はとってないって話だった。
いくらまわりが心配したところで
本人が いつも 不幸な自分に酔ってるから
誰も 助けてはやれない ってゆーてた。
逆境にたちむかうとき
具体的な 自分の幸せな形を 目指して
歩こうとするタイプと
不幸せな自分に 自分で涙して
そこで 立ち止まってしまうタイプ とで
人生は 大きくかわってしまうんだろうなぁ。

なんで 自分の幸せさえも 見出せないのに
こどもを また 産むんだろう と
思ったりするんだけど
きっと また こどもを産むことが
幸せの近道だと 思ったんだろうなぁ。
こどもは 幸せになるための道具では ないのに。

この1件で けっこう 凹んでるだよねぇ。
こういう 負 の力って
すごく強くてねぇ。
2008-04-06 Sun 22:55 | URL | いずみ #-[ 内容変更]

No.6510 NO TITLE
確かに凹むよねぇ・・・。
そして、そこに罪もない子どもがいたりすると
やっぱり同じように思ってしまう気がする。
でも、何もできないし、
子ども達が求めているのは
他の誰でもなく、
母親なんだろうなーと思うと
いても立ってもいられない。
けど、何も出来ないジレンマみたいな。
2008-04-06 Sun 23:43 | URL | ふみこ #-[ 内容変更]

No.6511 >ふみ
いっそのこと こどもたちは
施設に もっていかれたほうが よいのでは?
とか 思ったりもしてね。
どんな母親でも そばにいたほうがいいのか
その辺の境界線って 微妙だし。
そのことを 共通の友達に話したら
それは 上のふたりのときに すでに感じてたよ
と 言われたし。

なにもできないんだけど
気持ちばかりが ざわざわ。
2008-04-07 Mon 00:29 | URL | いずみ #-[ 内容変更]

No.6515 NO TITLE
>いずみちゃん
>いっそのこと こどもたちは

・・・だよねぇ。
いくら子どもが欲しても
そばにいちゃいけない親ってのは
存在するだろうし。
昨今の子どもを取り巻くニュースを見ていると
ホント切ない気分になる。
難しいよね。
どんなダメ親でも、親を否定するっていうのは
知らず知らずのうちに自分を否定している
ってことにもなるから。
そして、それを乗り越えないと
また先にも進めないしなぁ。
2008-04-12 Sat 02:49 | URL | ふみこ #-[ 内容変更]

No.6518 >ふみ
どーもね。
上のふたりも いろいろ問題があって
特に 一番上は
ほとんど 学校に行ってないよーなんだよね。
登校拒否とゆーか なんとゆーか。
そういう渦中で
下のふたりを産んだようなんだけど
産むだけ産んで
育てるのは 放棄しちゃうとゆーか。
それでも 産まない選択よりは いいのかな。
と 考えさせられるわな。
2008-04-26 Sat 22:22 | URL | いずみ #-[ 内容変更]

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